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小玉石を巡る冒険 その5

磯並を取り巻く海のイメージ(松代編)

「磯並」とは、玉依比売命神社が鎮座する場所の地名であった。

諏訪にいて磯並社の謎を考えていた者にとって、なんともあっけない種明かしである。地名が根拠である以上、「小袋石の磯並社にいる玉依比売は、松代の玉依比売命神社からの分祀である」としか理解しようがないのだ。

上社最古聖地ともいわれる場所を、北信から来た中央臭い神が統括している。

諏訪信仰(特に上社)の古さとオリジン性をなにより尊ぶ地元マニアにとっては、実にまったく耐えがたい話である。たまたまこれを読んで「冗談じゃねえ!」とかプンスカしている爺さんの顔が目に浮かぶようである。
私自身も地元マニアなので、最初は信じたくなかった。しかし、1センチでも1ミリでも史実に近づく、そのスリルと悦びは、諏訪人の業に勝るのだ。(笑ってほしいところ)

が、しかし、まだ諏訪人にも抵抗の余地はある。

確かに「磯並」は地名だった。しかし、「磯並」という名は、海神の娘の鎮座地に相応し過ぎる。移転の末、そんなうまい地名に辿り着くというのは、ちょっと出来過ぎなのではないか。すなわち、そこには後世の作為が感じられる。単純に地名を根拠としていいものかどうか。

そしてもうひとつ、提示しておかなければならない事項がある。
ちなみにこの件は、個人的に大リスペクトしている諏訪信仰総合サイト『諏訪神社と諏訪大社』(リンク参照)の中の、「兒玉石神社」の項で御教示いただいた。
ソースを明示したので、手を抜いて一部をそのまま引用させていただこう。

「諏訪七石」には幾つかの説があります。最も古い『上社物忌令(神長本)』に以下の文が載っています。

児玉石 海端に在り、満珠是なり
小袋石 磯並に在り、乾珠是なり

「海端」は諏訪湖端のことで、かつてはこの神社辺りまで湖だったそうです。満珠・乾珠は神話「海幸彦・山幸彦」に登場する「汐満珠」「汐干珠」のことですが、なぜ「干・満」なのかの説明はありません。


個人的には、「神長さん、とんでもねえこと言い出したぞ」という感じなのだが、そこまで道具立てが整っていると、「磯」概念の元は諏訪にあるんじゃないか?なんて仮説に、付け入る隙を与える感じだ。
なんにしても、「磯並」という語そのものと、それを取り巻く海のイメージについて検証しておく必要があるだろう。

まず注目したいのは、玉依比売命神社周辺に、湖沼干拓神話の気配が感じられる点である。
湖沼干拓神話というのは……これをひとつの神話類型として定義した論文等に未だ出会えていないので(絶対にあると思うのだが。誰か御教示ください)、その概念も呼称も、私が勝手に設定した暫定的なものなのだが……山間盆地にしばしば見られる神話類型である。
代表的なのが安曇野の泉小太郎伝説で、ほかに巨石をどかすなどして水を排出したというパターンで、手力雄など巨人神が活躍するものが多々ある。
具体的には、京都、奈良、阿蘇、甲府、そして水内(善光寺平)にあることを確認している。おそらく、ちゃんと探せばまだまだ見つかるのではないかと思うのだが……とりあえず、民話の「竜の子太郎」が泉小太郎伝説のバリエーションなので、その出所はともかくとして、かなり流布している神話類型なのだろう。
ただ、この神話、諏訪にはない。
当然の話で、今なお湖が健在だからである。

玉依比売命神社に立ち返ると、この地には、具体的かつスケールの大きな湖沼干拓神話が伝わっているというわけではない。まあ水内が湖もしくは海の続きだったとすれば、このあたりも一体ということになるので、その片鱗が伝わっている様子はある(太古は皆神山が島だったという民間伝承とか)。その手の話があれば海人族臭もいくらか漂ってくるというものだが、玉依比売命神社を祀るエリアだけで見ると、大きな湖の存在をイメージできるような地形ではない。
基本的には、現在は消滅している神社前の池がずっと大きかった、という話のようである。そのくらいの話であれば、史実である可能性も十分に考えられる。と同時に、諏訪湖をめぐる歴史的状況との相似性も感じられる。私は確認していないが、付近の山には「舟つき石」と呼ばれる磐座もあるらしい。

現在の平地部分に湖沼が広がっていたのだとすれば、その湖沼地帯をもって「磯並」と呼んでいた可能性が考えられる。ゆえに、安曇族がそこに海をイメージしたという読みは、一見、かなり説得力があるように思える。だが、低湿地のような池沼に荒々しい磯をイメージできるものだろうか? まして、「磯並」を「いそなみ」と読むとすれば、本来「磯波」だったと考えるのが自然だが、荒々しい磯の波をイメージするのはますます無理な話である。どうせ海を想うなら、もっと相応しい地名がいくらでもあるはずだ。

そう、この地においても諏訪においても、「磯並」の読み方ははっきりしていない。「いそなみ」とも「いそならべ」ともいわれる。これが「いそならべ」だったとしたら、素直に「磯」を充てるのもどうかという気がしてくる。「磯を並べる」では意味にならない。たとえば「五十奈良部」とか、もっともらしく古そうな字をあれこれとあてはめてみたくもなってくるというものだ(これはまったくのデタラメだが)。

そういえば、諏訪における中世の神仏習合を専門とする畏兄・原直正氏は、小袋石周辺の磯並システムについて、こんなことをいっていた(玉依比売命神社が磯並大明神であったという件を伝える以前の話である)。
「磯といえば岩なので、当初は小袋石のほかにも磐座があり、現在の4社はそれらに対応していたのではないか。その磐座が連なる風景をもって磯並べと称したのではないか」。
ふとそのことを思い出し、そこでひらめいたのだが……
「いそならべ」が「いしならべ」の転訛と考えたらどうだろう?

 石並べ

これは……児玉石神事の所作、そのまんまではないか!

説明順序が混乱してしまって申し訳ないが、必要が生じてしまったので、ここで玉依比売命神社の児玉石神事についてざっと紹介しておこう。

玉依比売命神社には、神宝として数百個の「児玉石」が伝わっている。児玉石の実態は多種多様だが、主体を成すのは古墳時代の勾玉である。特に大型の子持ち勾玉は注目に値する存在である。ほかに相当数の自然石、少数派として管玉、切子、ガラス玉などもあるが、面白いことに新石器時代の磨製石器も混じっている(写真で見た限りでは石斧らしきものもあった)。
児玉石神事とは、これらの玉類をひとつひとつ取り上げ、「正」の字を記して数え上げ、三宝に並べて神前にその数を奉告、年ごとの玉の増減にとって吉凶を占うという神事である。
数が減れば凶兆なので、氏子は例年新たな玉を奉納するのが倣い。

というわけである。
祭事の記録としては江戸時代を遡り得ないらしく、また、記録によれば所蔵数の大多数は江戸後期以降に奉納されたもののようで、それも大方は付近の古墳群からの出土品と見られる。しかし、それを「児玉石」という概念の下に扱った事情については、もっともっと古いルーツを想定すべきだと私は考える。

前項で、「信仰の地そのものに必然性があれば同じ地に再建するし、村の鎮守であれば村とともに移動する」(この神社は前者ではなく、後者についてはどちらともいえない)とか「原始的な自然信仰の匂いの希薄な宮」などと書いた。にもかかわらず古社であるということは、ほかに信仰の根拠、本質があるはずなのだ。
ひとつ確実にいえるのは、地域の農耕の守り神だということである。児玉石神事以外の主要祭事について、御田神事、御判神事、ともに極めて古式(特に御判神事は相当に珍しいのではないか)であり、かつ、百パーセント農耕儀礼だ。しかし、そこがよくわからない。三社のうちの一柱であるアマテラスが豊受比売だったとしたらすんなり納得がいくのだが(というか、私はそのように疑っている)。
少なくとも、農耕儀礼を司るのはまったくもって玉依比売の「係」ではない。にも関わらず玉依比売が主祭神であるのなら、児玉石神事を司っていると考えるのが筋であろう。
つまるところ、まさに「石並べ大明神」なのである。
当初から抱いていた「玉依比売命神社の玉依比売は本当に海神の娘なのか?」という疑問も、膨らむいっぽうである。

さて、「石並べ」という仮説をいちおう受け入れるとするなら、この地名はむしろ玉依比売命神社に依存して成立したことになる。だとするならば、なぜそれが転訛し、わざわざ「磯」の字が当てはめられたのか?という疑問が生ずる。
しかしこれはもう、至って簡単な話で、玉依比売(という名)が持つ海神のイメージに引っ張られてのことだろう。
順序が逆と考えれば不思議でもなんでもないのである。
山間の湖沼地に「磯」を観想するよりは遥かに自然な推論だと思うのだが、如何だろう?

そして、ここまでの考察を踏まえ、今一度諏訪の磯並システムに立ち戻ってみたい。
のだが、長くなってしまったので、ここでいったん切ることにしよう。

(つづく)
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