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鎮神社 その2(完結)

なにを鎮める蛇神様?

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「鎮神社(しずめじんじゃ)」とは、あまり聞かない社名です。祭神不詳ときて、見るからに近在の民の地主神然としたたたずまいですから、ごくごく当たり前に「鎮守」の別の言い回しと考えるのが普通ですし、たぶんその通りなのでしょう。

でもなあ……。

とりあえず……わりと近所、塩尻峠の反対側から木曽谷への入り口に当たるかつての宿場町「奈良井」に、「鎮神社」という名の神社があることは知っていました(けっこう立派なお宮で、盛大なお祭りもあったりするらしいので、そのうち行ってみます)。
そんな近くに同名の神社があるわけですから、別に珍しいものでもないんだろうと思っていたんですが……いやね、"鎮神社"でググっても、全然ヒットしないんですよ、これが。
当たるのは奈良井の鎮神社ばかり。まれに、ここ長地の鎮神社の記事があるほかは、鬼鎮神社とか龍鎮神社とかの「×鎮神社」が紛れ込んでくるのみ。ただ、まれに摂末社のリストに見られるということは……つまり、ググって当たるほどの認知もなく注目もされない、いかにも鎮守らしい小祠にはいくらでもある名なのかもしれませんが……。

それでも辛うじて拾い上げたのが、まず、松本市の鎮神社。
曰く、市内を流れる女鳥羽川は暴れ川で有名で、松本城を建設した石川数正は、城下町整備の一環でこの川の治水工事も敢行。その際に建てたのが、「鎮神社」とのこと。

うーん、社名の由来になんの謎も奥行もないなー。しかもご近所さん。

もうひとつ、水内鎮神社というのもありました。
あれ? 長野の水内って……確か諏訪信仰と縁の深い……って、おいおい! 「御柱祭で有名」って書いてありますよ。案の定、諏訪の神を祀ってるし。
県内の上に、ご親戚でしたか……。
うーむ……。
(※今後、諏訪信仰と善光寺の関係に触れるテーマをなんらかの形でまとめることができる時が来れば、この神社も再登場することになると思います)

まあいいんですが、あとは、福島市の「大地鎮神社」が見つかったくらいです。
ただしこれは「大地主神社」という別名も持っています。大地主または地主神社というのは、もっとずっとポピュラーで一般的な土地の鎮守のネーミングですね。京都東山は清水寺の鎮守社(縄文の匂いのする怪しい神社でもある)で有名です。
とすると、地名が「大地」というわけでもないんで、つまり「大地鎮」で1単語、「鎮神社」という固有名詞に数えるわけにはいかないでしょう。

そういうわけで、ま、「鎮神社」という社名は、鎮守に類する一般名詞のバリエーションに過ぎなかったとしても、決してポピュラーな表現ではないようです。

と、そこで改めて奈良井の鎮神社のことを調べてみたんですが……む、祭神がフツヌシですか……。

多少なりとも古代史や日本神話に通じた諏訪人にとって、これはいい気持ちのしない名前です。なぜなら、仇敵タケミカヅチとペアを成す、東征の神だからです。
千葉の香取神宮の祭神であり、また、宮城の多賀城は塩竈神社に祀られていることからも(その説話からも)東征の神としての性質は明らかです。
そんな神様が、諏訪の勢力圏から尾張方面への直通ルートの入り口に陣取っているというのは……どうにも愉快な気はしません。

とはいえ、奈良井鎮神社の縁起は「元和四年、この地に疫病が流行り、これを鎮めるために下総香取神社から経津主神を勧請した」とのこと。味もそっけもないくらいリアルで、疑うどころか神話的解釈の余地すらまったくない、きっぱりとした縁起です。
……いや、つまらない深読みをしてしまったようですね(実は裏の裏だったりして)。

しかし、いずれにしても、「鎮」という言葉には穏やかならざるニュアンスがあります。
暴れ川の鎮め、疫病の鎮め、そして……ヤマト系神社の本義とも言われる怨霊鎮め。

ものの本によると(調べたらwikiもそれなりにフォローしてましたが)、今ではまったく区別されることのない、地主神、産土神、氏神、鎮守、本来はそれぞれに違う意味を持っていたようです。

地主神というのは、一番ストレートです。そこの土地の神(言うなれば、その土地固有の自然環境、自然特性そのものを神格化したものか)をそのまんま畏敬し、祀り、土地の住民の守り神となってもらうものです。

産土神には、その言葉通り、豊穣神・生殖神としての性質が加わってきます。「その地で産まれた者を守ってくれる」というニュアンスで、道祖神のような民俗的な古信仰が習合しているのでしょう。いわば地母神ですね。

氏神もまた、文字通りです。ムラという組織は血族で構成されるのが原型ですから、ひとつところに同じ氏、姓を共有する者たちが固まり住むのが、近代までは(いや、現代にも無数に残っていますが)ごくごく当たり前の形でした。
こうした一族の守護神が氏神です。ただし、「氏」という言葉はもともとそのへんに当たり前にいる血族に使われるものではありませんでしたから、本来は、たとえば「物部氏→石上神宮」みたいな大仰なものを指していたようです。

そして「鎮守」というのは、読んで字の如し、「鎮めて守りとする」のが本義です。
「荒ぶる神、転じて守護神」というパターンは、古神道はもちろんですが、インド由来の仏教でも多くの例が見られ、まして密教系では王道中の王道、黄金パターンの必殺技です。おなじみの阿修羅なんかがモロにそのパターンですね。
先の例でいう「暴れ川を鎮める」みたいな、あらかじめその場にいた荒ぶる神を鎮めるという基本的な祀り方は当たり前として、実際の適用パターンを見ると、ある場所に新たになにかを設置するとき、「もともとその場にいた神を祀って許しを乞う」もしくは、「強力な神を他所から招いて先住の神を服従(もしくは融和)させる」というニュアンスが強いように思われます。「地鎮祭」なんか端的な例といえますし、中央にとって、「国家レベルで見た場合の諏訪の鎮守」が建御名方、という表現もできるかもしれません。
だから「村の鎮守」という場合、その村が開拓村であるほうがしっくりきますし、寺院の庭に鎮守社があったり、伝統あるデパートなんかが屋上に鎮守を祀っているのも(多くは元地にあった祠を移設しているわけですが)納得のいく例です。

ま、今となってはどれも一緒になっちゃってるんですけどね。

それでまあ、実際のところ大した意味はないのかもしれませんが、
「長地の鎮神社は、いったいなにを鎮めているんだろう?」
なんてことを、ついつい考えてしまうわけですよ。
暴れ川という場所ではないけれど……かつて山崩れがあったとか……はたまた、山の上の古墳に眠る「誰か」の霊を鎮めているとか……それとも蛇……いやいや!
でもまあ、たまたまこの付近で白蛇を見かけたらその後なにか特別なことが起きて……とか、そういう素朴な話ならあってもおかしくなさそうなんですが……でも、どんな筋書きにせよ、別段それらしい伝承はこの地に残されていません。

そしてもうひとつ。
これは別項のネタとしてとっておきたかった話なのですが……ちょっとだけ触れちゃいます。

中世以降、おそらく近世に至ってからの話だとは思いますが、関東甲信越のあちこちに、第六天とミシャグジが習合していた気配が残されているようです。
いずれ修験系の連中(※注1)が近世にやらかした一連の怪しげな習合操作に属するものなのでしょうが……いやしかし!
あろうことか、ここ鎮神社の「魔王第六天」は、金刺の姓を冠した江戸末期武居祝の揮毫なんですね。

うひー。

ま、そのへんの話は機会を改めたいので今はこれ以上突っ込みませんが、まあ……うん、武居祝による保証付きの第六天、そして蛇とくれば……やっぱりごくごく自然に考えて、この祠の祭神はミシャグジなんじゃないでしょうか。
ミシャグジが鎮められてるのか、それともミシャグジがナニカを鎮めているのか……それは知りませんけど。

いずれにしても、境内はそこそこ清らかに保たれていて、下の行屋と広場には、今でも近在の住民が集うことがあるようです。
以前蛇神様に会いに来たときには、中学手前くらいの女の子3人組が自転車に乗ってやってきて、本殿の裏に回り蛇神さまの存在を確認していました。

愛されてますね~。

この地に鎮められているナニカも、安心して鎮まっていてくれることでしょう。

sizume22.jpg

090618:付記と訂正
すごくマニアックな内容になるので、一般の方はスルーしていただいて構いません。
文中、鎮神社「魔王第六天」の揮毫は武居祝と書きましたが、「小萩祝」の誤りでした。すみません。
実は、同じ岡谷市内に、ほとんど同時期の武居祝揮毫の第六天碑がほかにありまして、ゆえに、うっかりカン違いしてしまった次第です。
「小萩祝」というのは、注にも出てきた出早雄神社と小萩神社の神主を兼任する神職のことで、下社系組織に属するうえ、基本的に武居祝の支族が務めていたので、大きな間違いではありません(と、言い切っておく)。小萩祝は江戸期には武居姓の一族が務めていましたが、武居祝同様に(なぜか武居祝一族本来の姓は今井)、金刺姓を名乗っていました。



注1)
そういうことを好んでやったのは主に天台系ですね。諏訪神社の神宮寺は上社下社とも真言宗でしたが、ま、同じ密教です。室町~江戸初期ころ、下社神宮寺に身を寄せていた修験者があれこれ考え出した……という可能性が高いように思います。
ちなみに私は、そのへん周辺のキッチュで怪しい神仏が大好きです! 今後、しばしば取り上げていくことになるでしょう。
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